テンプル・グランディン博士の講演会

テンプルグランデン博士の講演会に行って来ました。先日、Palo Alto(カリフォルニア州)で彼女の講演会があることを知り、聞きに行ってきました。

テンプル・グランディン博士と言えば、自閉症の親はほとんどの方がご存知じゃないでしょうか?自閉症でありながら、博士号を取得された方です。動物学者で、非虐待的な家畜施設の設計者。現在コロラド州立大学准教授です。彼女の Wikipedia ページはこちらにあります。
→ テンプル・グランディン http://ja.wikipedia.org/wiki/テンプル・グランディン

本当に力強く、ものすごい早口で話す方です。けど、彼女の頭の中はこの話の10倍の早さで動いているのでは?と思うほどの回転の早さでした。全体的には、彼女が気になるトピックは徹底的に話すし、話がそれている様に感じることもあったのですが、それも彼女が自閉症ならではの会話なので、ブログでは箇条書きに近い状態で、彼女のお話をあげて行きます。

では講演内容です。

彼女の脳は、医学的にもいろいろ調べられているらしく、多くの脳のMRIが普通の人と比較しながらその状態が映し出されました。彼女の脳の中は、言語を出す部分が非常に狭く、しかし、脳は普通の人よりも発達しています。なので、神経が過敏に伝達してしまうような話もされておられました。同じ年齢の人の脳の発達と比べても非常に発達しているのですが、言語の部分の発達が小さい。それが特徴のようです。

自閉症の話については下記です。

  • 子どもの砂遊び: 自閉症のこどもはおもちゃなどを駆使して遊びのではなく、さらさらの砂を手でつかんではさらさらと落とす、という行為を繰り返す。これは非常に気持ちがいいらしい。さらに落ちて行く砂の一粒一粒を見てるのです。
  • (NASAの火星着陸の男性チーム3名が写っている写真をみせながら) この写真は、3人の人が写っています。一人は、はげています。この事には私は言及しません。隣の人は髪の毛をバリバリにポマードで固めて、まるでエルビスの様。今のこの時代に、こんな髪型をする人はいません。さらに隣の人は、60歳近いというのに、腰まである白髪の髪の毛を束ねてのばしている。これらの写真からみてもわかるように、彼等は自閉症やアスペルガーにとって天国である場所にいるということ。(会場大爆笑)
  • iPhoneやiPadなどの機器は自閉症にとっては最高の機材です。これを使わない手はありません。特にコミュニケーションなどについては、大きな助けになります。詳しくは本に書いてありますので、ぜひ見てください。
  • 自閉症やアスペルがーの中に画像が得意な人が多い。私の頭の中の写真でぼやけたものは1枚もない。なので、多くの画像が頭の中にでて来る。たとえば、飛行場。「シカゴ空港から旅立ちます」と言われたら、まずは知ってる空港の画像がでてきて、ガラスの建物を思い出す。なので、ガラスが多い空港の写真を頭の中で展開させて、シカゴ空港の画像を見つける。「あぁ、ここに行くんだな。」と解るけど、シカゴ空港までは車までいくということには結びつかないので、誰かが「車で行きます。」と言うと、初めて「あぁ、車で行くんだな」と理解する。
  • 画像処理の部分で、私は一般的に他の人たちも全員1枚もぼやけいない写真を頭で見ていと信じていた。例えば、他の人が、「前に行ったあのビルなんだっけー?」となっても私は、ガラスが72枚とか、窓枠に使っている素材や色、屋根まで全ておぼえている。なので、覚えていない人がいるということをまったく知らず、思い出せない人をバカだと思っていた。他人が、ぼんやりとした写真を頭に持っているということを知らなかった。なので、周りの人からは、私はいつも上から目線の人だと誤解されていたと思う。すごく嫌な人だということですね。
  • 上から目線で人をみてしまうというのは、自閉症の誤解を周りが解いてあげないといけません。駄目だと注意するだけでは、意味がわからない。
  • 3歳まで口頭言語が出ない子どもに対して、親がなにもしないのは子どもに対する一番の侮辱。セラピーを受けるとか、iPadなどを使ってコミュニケーションをとるなど、なんらかのコミュニケーションの手だてを親は持っているべきだ。
  • 自閉症の子どもの中には 1)画像で学ぶ、2)数値で学ぶ、3)パターンで学ぶなどがある。自分の子どもがどの分野が抜き出ていて、どのような方法で学ぶのか?を把握すべき。たとえば、私は、1989年にビルゲイツと一緒にスーパーコンピュータに触れた事があるが、私は絶対にコードを書く人間にはならないと思った。それは面白くなかったから。けど、彼は、面白い面白いと興奮しまくっていた。自閉症がみんな同じ分野が得意という訳ではない。
  • 私は画像で学ぶので、画像をつなぎ合わせてのシュミレーションができる。例えば、屠殺される牛の家畜施設の設計をするときも画像がすでに頭の中にあり、その建築物を牛が歩くところはシュミレーションが出来る。この力は建造物を作るときなどには、必要な力で、福島原発などは、自分は画像をみせてもらい、原発について必死で勉強すると、どのように波があたり、どのように壊れたか?というのはシュミレーションができる。なので、製図をひいたり数値だけで計算する人間だけでなく、シュミレーションできる人間は建造物を作るときには絶対に必要。
  • 自閉症は人が多いところは、スピーカーの中にいるように感じる。スーパーが苦手な子供は今の時代、iPhoneなどで録音し、小さい音からの少しづつ聞かせて慣れさせる練習をするべきだ。
  • 自閉症の子は小さい「くっ」とか「たっ」とかつまる音が聞こえにくい。その音は鮮明に出すようにする。自閉の子どもには、聞こえない音があるので、その事に注意し、理解すること。
  • 子ども達になにかを伝えるときは、なるべく多くの情報を渡す事。例えば、牧場に行くとする。この時の情報の与え方。「牧場にいくからねー。牛が見えるよ。」だけだと、不安になる。そこで、
    1. 牛がいる牧場に行く。
    2. 牛は柵の中にいて出てくる事はない。
    3. 牛はもーもーと鳴く。

    というように話す。自閉症の子どもの多くは、高い声(赤ちゃんの泣き声や女性の黄色い声)は苦手なので、もーもーと鳴く、ということを言えば、安心する。嫌な音を聞かないでいいという安堵感。この時に赤ちゃんの声ではない、という言い方をするとフラッシュバックをおこしてしまう子がいる。

  • 大きな文字よりも小さい文字のほうが自分の注目が行きやすい。
  • アスペルがーの人には、期限と結果を伝えれば仕事ができます。できないのは伝え方の側の問題。

会場からの質問を受けて
Q. 息子はアスペルがーですが、恋愛はできますか?
A. 愛についての理解は各自違うが、愛に対して非常に忠実である。一度信頼関係を結ぶと忠実になる。言うなといわれれば、一生言わないで秘密で過ごす事ができる。

Q. ペットを飼おうとおもっているのだけど、どうかしら?
A. ペットは3つにわけた反応を示すと思う。近寄っていく子。苦手だけど、住んでるうちに慣れてくる子ども。最初から怖がる子ども。けど、どの反応も彼等にとっては学びになるし非常にいい経験であるので、いい結果になる事が多いので、ペットを飼うことはすすめます。

今回の講演会の結び
なぜ自閉症の子どもが生きにくいか?
それは、たくさんの変わった能力のある子供は、その能力を生かせることのできるメンター(指導/助言者)がいないので、チャレンジできるキャリアに結びつかない。

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以上が講演会の概要でした。

私は話を聞いて目から鱗の事が多くありました。砂場での一人遊びの話は、うちの息子にはしっかり当てはまります。他の子ども達が力をあわせて山をつくったり、ショベルカーなどのおもちゃを使って、遊んでいるのに、息子は一人ぼっちで、両手を砂につっこんで、手ひろげて空に向かってあげて、手の甲から落ちていく砂を眺めるという遊びを何時間でも行いました。訳が解らなかった私は、ショベルカーを買い替えたり、スコップを買ったりしましたが、結局無駄でした。
そうか!砂を一粒、一粒見ていたのか!と思います、そう言われれば、当時の息子の行動は非常にわかりやすかったです。

今回講演会の結びは本当にその通り。多くの才能がある子どもを見かけます、彼等の才能を生かせることがでない大人の側にも多くの問題ありかと。いろいろ今後の課題を提示してもらえた講演会でした。

文責: 久保由美